2025.6.2
業務用iOSアプリ配信方法選定チャート(従業員用)のPDFを公開します
業務用iOSのアプリ配信方法がどのように決まるのか(決めるのか)を判定するためのチャートを公開します。
ADEPからADPへの移行(カスタムApp化)を進める企業や、新たに独自アプリを作る企業、またそうした企業を支援する関係者の方に役立てて頂けるかと思います。
自社従業員に使わせるアプリで、かつADPを前提としている点はご留意下さい。1枚ものの簡単なチャートになります。
画像貼り付けだと少し見にくいのでPDFも用意しました。以下にチャートの順に解説しますので、別ウィンドウでPDFを拡大しながら読み進めて頂くと良いと思います。
配信方法選定チャートの解説(1) : そもそも論
チャートは左上からスタートです。まず最初の判断は、
ここですね。まさかの「Webにしましょう」です。本サイトでもいくつか関連エントリを書いています。
弊社はiOSアプリと関わり始めて2025年6月時点で17年近く。その間、B2C/B2B/自社アプリ/受託アプリこれら全ての組み合わせを色々経験していますが「安易な自社アプリ開発はお勧めしない」が一貫したスタンスです。今も昔も業務用iOSアプリの真理だと思っています。
(10年以上前のセミナー資料。自社アプリを作るのは最終手段であると解説し続けてきた)
MDM/ABMを併用すれば、自社専用のアプリがなくてもWeb技術だけでiOS端末を十分に活用できます。なので、カスタムApp化を考える場合も新規アプリ開発をする場合も、まず真剣に「本当にWebではダメなのか?」を問うてみることをお勧めします。
2025年現在、業務用アプリの9割はWebで十分であるという感触を持っています。以下もご覧下さい。
- Webクリップとは何か(1) -Webサイトのブックマークを配布する-
- Webクリップの作り方と各設定値を徹底解説 [前編] -Webクリップとは何か(2)-
- Webクリップの作り方と各設定値を徹底解説 [後編] -Webクリップとは何か(3)-
- WebクリップはSafariを削除していても使用できる(ようになった) -Webクリップとは何か(4)-
配信方法選定チャートの解説(2) : PoCや実験
Webが無理なら、次はTestFlightの活用を検討して下さい。
TestFlightの最大のメリットは審査関連の面倒臭さがないことです。ユーザが100人以下ならTestFlightの内部テスト、ユーザが100人より多く10000人以下なら外部テストが使えます。外部テストには審査が必要ですが、あってないようなものですし、バージョンを変えない限り無審査というハックもあります。
TestFlightのデメリットは主に以下2つ。
- 有効期間は90日
- AppleIDが必要
ただ前者は1,2ヶ月ごとに定期的にビルドを作ればほぼ解決です。後者は、ABMを使って全社員にAppleID(Manged AppleID)の供与が容易になっているため、昔に比べてハードルは下がってます。Managed AppleID については以下をご覧下さい。
従業員が多い場合は EntraID や GoogleWorkspace との連携も活用できますので、TestFlightのAppleID要件はデメリットにならないケースもあります。
配信方法選定チャートの解説(3) : 本番稼働でも審査回避
TestFlight が適切でない場合、AdHoc 配布を検討することをお勧めします。
繰り返しますが、業務用iOSで一番面倒でかつ運用に制約を与えるのは審査関連です。それを避けるためのWebであり、TestFlight であったわけですが、それらがダメなら次は AdHoc です。
AdHoc についての詳細は以下をご覧ください。
Apple Developer Program に明示的に端末識別子(UDID)を登録して稼働させる方法で、端末種別ごとに上限100台以下に抑えられるなら、ADEP の InHouse に近しい運用が可能です。
先に書いたTestFightの「AppleIDが必要」という条件は満たせないが、100台以下のPoCや実験アプリである場合でも有用です。
配信方法選定チャートの解説(4) : AppStoreからの配信
チャートもここまでくると、AppStoreからの本配信しか選択肢がありません。
AppStoreからの本配信にも種類があり、最初に検討すべき配信方法は「公開アプリ」です。我々が個人利用で App Store で見かけるようなアプリと同じ位置付けとなります。社名や関連名で検索した時にアプリの存在を知られても良い場合に採用できます。
公開アプリをまずお勧めするのは、他の選択肢である非公開アプリ(カスタムApp)と非表示アプリに比べて、実績のある開発会社が多くアプリ開発から配信までスムーズに進む可能性が高いからです。
非表示アプリなら追加の特別な審査が必要だったり、非公開アプリ(カスタムApp)ならABM/MDMの知識や運用体制も必要だったりと少々面倒臭くなります。
配信方法選定チャートの解説(5) : カスタムApp or 非表示アプリ
ここまでくるということは、Web技術では実現できず、まとまった端末数で本稼働させる必要があり、世間に知られたくないアプリです。この場合、どんな端末で動作させるのか?という視点で三択になります。
ひとことでカスタムAppといっても配信の仕方には2種類あり、インストールの仕方も変わります。どのような端末に配信するかに応じてどちらかを選ぶことになります。
- カスタムApp (管理対象ライセンス)
- カスタムApp (引き換えコード)
大半の場合(国内従業員向けの非公開アプリ)は、前者です。一方で以下に該当する場合は後者です。
- 端末を会社支給せず個人端末を業務に使わせるBYODスタイル
- MDMが導入できないケース
後者の引き換えコードを選んだ場合、業務用アプリが個人AppleIDに紐づいてインストールされる(つまり退社後も使われる可能性がある)点には注意して下さい。万が一に備えて認証機構を備えたアプリでなければ採用はできないでしょう。
また、日本企業としてABMの利用申請を行った場合、海外従業員のBYOD端末に対しては、カスタムAppの引き換えコードライセンスは使用できません。必然的に非表示アプリを選択することになります。
(研修資料より。AppStoreは国ごとに分かれており、カスタムAppの配信は国単位で閉じる必要がある)
あるいは、端末管理や運用体制まで調整して「国内法人で調達した端末に管理対象ライセンスでインストールして、海外従業員に当該端末を使わせる」という逃げ道を採用することもできます。
海外従業員への非公開業務用アプリの配布は、カスタムAppやライセンスの種類、ABM/MDMの十分な理解がないと難しいので余りお勧めしません。素直にWebアプリにしましょう(笑) というのは冗談で、非表示アプリか公開アプリにしてログイン機構を設けるのがベストです。
以上、ADP前提で自社従業員が使うアプリをどう配信するかの判定チャートを解説してきました。配信方法を決定する社内ルールを作る時の参考として頂ければと思います。もし「このアプリはどの配信方法が良いんだろう?」と気になる場合、こちらよりお問い合わせ下さい。
なお、本チャートは ADEP InHouse は考慮していません。ADEPは意外にもまだ使えている企業が多く、徐々に移行を強いられている印象ですが、まだ使えるなら使い続けるのが最善です。カスタムApp化を考える時に本ページのチャートを参考にして下さい。
また本チャートでは、従業員が使用するアプリを前提としました。もし「販売代理店に使って貰うアプリ」「ソリューションを販売した顧客企業の従業員が使うアプリ」のように自社従業員利用でない場合は少し異なるので注意して下さい。非従業員のケースはまた別の機会に紹介したいと思います。