2023.12.11

カスタムAppのアプリ審査についてよくある誤解(3) 〜特殊なアプリは審査して貰えない〜

業務用iOSアプリをADEP(InHouse)からADP(カスタムApp)に移行するに際して、よく聞かれる誤解について解説するシリーズ第3弾です。前2回は以下をご覧下さい。

審査のことがよく分からないという不安から、心配が誤解に繋がっていることが多いです。

これには非常に分かり易い理由があります。業務用iOSアプリを請け負う開発会社も、商流の間に入るコンサル会社やSIer企業も、B2Cの世界とは無縁な場合が多いのです。つまり AppStore に触れる機会がほとんど無い(無かった)。だから知らないし、よく分からないし、不安、となります。当然ですね。

ですが、誤解は紐解いてみれば「な〜んだ、そうなんだ」と拍子抜けすることがほとんどです。

シリーズ3つ目となる本稿では「専用機器やローカルネットワークの使用を前提とする特殊アプリは、そもそも審査して貰えない」という誤解について解説します。

 

結論 : 審査して貰える

結論を書くと、審査して貰えます、となります。

この誤解は、AppStoreのアプリ審査の経験がない業務用iOSアプリ関係者にありがちな思い込みです。ADEP(InHouse)からADP(カスタムApp)への移行検討時には特によく聞かれる言葉でもあります。

業務で使う専用ハード用のアプリだから審査して貰える筈がない、だから移行は無理です…ってなもんですね。

実は、AppStore で公開されている(審査を通過している)アプリ群を冷静に見渡してみると、専用ハードウェアと連携する前提のアプリが多く存在していることが分かります。例をあげましょう。


(最近何かと問題のLUUPのアプリ)


(SONYのDIY用IoTモジュールMeshのアプリ)

前者はバイクのQRコードを読み取る機能があります。後者は 2cm x 5cm 程度のIoT用パーツとBluetooth連携するアプリです。どちらも「ブツ」が必要ですね。

さて、これらの専用ハードウェアが必要なアプリを Apple はどのように審査しているのでしょうか?

ハードウェアをApple 現地法人に送付する…と思われますか?それとも審査が難しいという事情があれば無審査で通過させて貰えると思われますか?はたまたAppleの審査員(レビュワー)が開発元までわざわざ飛行機で来日して審査してくれると思いますか?

答えは、

  • アプリの起動等の最低限のチェックは行われる
  • その上で、アプリを説明する動画や画像を送って審査して貰う

です。

そう、専用機器を触って貰えないからAppleは審査ができない、社内ローカルネットワークでしか動作しない特別なアプリだから審査がそもそも不可、ではないのですね。

 

動画や画像で審査して貰った具体例

弊社実績の中からの具体例を2つほどあげてみます。

  • 自社開発の、BLE (Bluetooth) 通信前提の専用ハードウェアと連携するB2Cアプリ
  • 受託開発の、商業施設内に固定された機器をネットワーク経由で遠隔操作するB2Bアプリ

前者のB2Cアプリは、アプリ使用中の様子を動画撮影して審査して貰い、AppStore公開アプリとして国内で配信しました。2014年のことです。詳細は以下に掲載されていますのでご興味あればご覧ください。(2016年に(株)そらかぜに事業譲渡。その後、販売/サポート終了)

後者のB2Bアプリは、いわゆる専用ハードウェアのリモコンアプリ。同様に撮影動画で審査を受け AppStore の非公開アプリ(カスタムApp)としてABM→MDM経由でお客様の業務用端末に配信しています。ADEP(InHouse)からADP(カスタムApp)に移行した例で、審査は2022年のことです。2023年12月現在も現役稼働中です。

他にも事例はありますが、審査の受け方はどれも一緒です。アプリを実際に触ることだけが審査というわけではなく、Appleなりにアプリを理解しようと頑張ってくれます。そのための追加情報を提供するわけです。

 

どのようにして動画や画像を提出するのか

AppStore向けアプリは App Store Connect から審査に提出します。


(App Store Connect ではアプリ毎に詳細な情報を登録する)

アプリに関する様々な情報を入力しますが、その中にAppleの審査員(レビュワー)向けに各種ファイルを送付できるUIが用意されています。下図のように添付ファイルをアップロードできるのですね。


(通常は余り使わない)

1ファイルしか添付できませんので、複数ファイルを送る必要がある場合はzip化して添付します。

動画の場合はサイズが大きくなりがちですので、Box や Dropbox 等のクラウド型ファイルストレージを使ってもokです。共有用URLを発行し、そのURLをメモ欄に記載します。

秘密情報が含まれていてAppleのレビュワー以外にダウンロードされたら困る場合は、共有用URLにパスワードをかけメモ欄にパスワードを併記すれば良いでしょう。

「最初から動画をいちいち用意しなければならないのか?」

と気になる方もいると思います。最初から添付すると確かに親切なのですが、最初から必須というわけではありません。レビュワー用のメモ欄にテキスト解説するだけで十分な場合もあるからです。社内用のマニュアル動画を用意しているのであれば、ついでに添付するぐらいのスタンスで最初は良いと思います。

仮に、動画や画像なしで審査提出したとします。Apple のレビュワーが実際にアプリを起動して確認し「ちょっとこれでは審査しようがないなぁ…」となったとします。そうすると審査情報不足とされ、以下のように reject されます。(ガイドラインの2章「パフォーマンス」の違反という扱い)


(審査の情報が足りないとして reject されている様子)

Apple からはこんなメールが届きます。(太字は筆者)

We have started the review of your app, but we are not able to continue because we need access to a video that demonstrates the current version of your app in use on a physical iOS device, which shows 〜〜〜.

(rejectメールは基本的に英語だが、2023年12月頃からは日本語で送られてくる試みも始まっている)

要約すると「実機で動作している様子が分かるデモ動画を送ってください」ということです。文中 〜〜〜 の箇所は具体的に Apple のレビュワーが確認したいと考えている内容です。かなり親切に分かり易くアドバイスしてくれていると思いませんか?

こうなってから動画や画像を制作してもokです。reject を受けたからといってペナルティを課されたり、以後の審査で通りにくくなる…なんてことはありません。

また、このような情報不足系 reject ではアプリを修正して再ビルドしてアップロードする必要はありません。レビュワーのアドバイス通りに動画や画像を添付するか、共有URLを提示して再度申請するだけです。


(reject時にレビュワーと会話できるスレッドが用意される。ここで返信しても良い)

ちなみに、アプリ情報の修正/追加だけを求められるタイプの reject のことをメタデータリジェクトといいます。メタデータリジェクトでは、アドバイス通りに情報を修正/追加すれば審査が続行され、別の問題がない限りすぐ審査通過となります。

 

以上、「特殊なアプリは審査して貰えない」という誤解について 、実は動画や画像などのリッチメディアを提出することで審査して貰うということを解説しました。

カスタムAppは特定企業の非公開アプリですので、Appleが決して使うことのない専用機器や専用環境を前提とする場合が多くなります。動画や画像で説明が求められることに備えて、それらを制作するための体制作りと時間確保をしておくと良いでしょう。

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